「資本コスト」とは投資家が株式投資によって負担するリスクに見合って要求する割り増し分の収益(プレミアムリターン)のことです。
資本コストは“会社の価値を決める方式(モデル)”を基に求められます。会社の価値を規定するモデルはこれまでに様々な形で工夫されていますが、当サイトではその実用性の高さによって広く用いられている「EBOモデル」(*)に基づいて資本コストを求めます。
(*)EBOモデル
「EBOモデル」の名称は当モデルを唱えた米国の3人の研究者、Edward,Bell,Ohlsonの頭文字をとったもので、割引残余利益モデルまたは割引超過利益モデルとも呼ばれます。
残余利益とは株主に帰属する利益である純利益から株主の負うリスク負担に見合う報酬分を除いた残りの利益、すなわち株主にとって真に会社の価値の増加分となる分を指します。
したがって、株主にとっての会社の価値は直近の株主の持ち分である純資産(自己資本)に将来得られる全ての残余利益を足し込んだものとなります。
会社の価値は以下の式で示されます。
会社の価値=直近の純資産+将来の(純利益-リスク負担に見合う収益)の合計
ここで、株主が投資に伴うリスク負担に見合う割り増しの収益が資本コストなので、上記の“リスク負担に見合う割り増し収益”は株主の持ち分である純資産の資本コスト比率の分となります。すなわち、
リスク負担に見合う収益=資本コスト*純資産
よって、
会社の価値=直近の純資産+将来の(純利益-資本コスト*純資産)の合計
また、将来の収益を現在の価値で評価するには将来の収益を割り引くことが必要ですが、その際の割引率は投資家が投資によって得ようと期待するリターン、すなわち資本コストになります。
したがって、会社の価値は以下の式で示されます。
会社の価値=直近の純資産+将来の{(純利益-資本コスト*純資産)/(1+資本コスト)}の合計
ここで、純利益を将来にわたって一定、資本コストも一定と仮定して一定の処理を施すことで上式は以下のように転換できます。
会社の価値=直近の純資産+(直近の純利益―資本コスト*直近の純資産)/資本コスト
すなわち、会社の価値を求めるためのデータは直近の純資産と純利益という、誰でも入手できる公開情報なので実用性が非常に高いのです。これがEBOモデルです。
さて、EBOモデルから日経平均の資本コスト(市場リスクプレミアム)は以下のように求めます。上式を整理すると以下の式になります。
会社の価値=直近の純利益/資本コスト
ここで、株価が会社の価値を正確に反映しているものとして、会社の価値に株価を当てはめると逆算で資本コストが以下の式で求まります。
株価=直近の純利益/資本コスト
より、
資本コスト=直近の純利益/株価
上式で会社の資本コストが求まりますが、ここでは会社の価値が株価に等しいという前提の下で導いた資本コストということで、“内部資本コスト”と呼びます。
ここで、株価に日経平均、直近の純利益に日経平均ベースの純利益(注)を当てはめると“日経平均会社”の資本コスト、すなわち市場全体のリスクプレミアムが求まります。
なお、「標準リスク」は過去の「市場リスクプレミアム」の平均値とします。投資リスクは低い方が望ましいですが投資を行う限りリスクは避けられません。そうであれば過去の平均的なリスク水準を許容(我慢?)できる水準として受け入れる、と考えます。具体的には市場リスクが連続して算出できる最長の期間である2010年5月以降を対象に平均値を求めます。
(注)日経平均ベースの予想EPS
日経平均ベースの予想EPSは株価収益率(PER、Price Earnings Ratio)の定義式から求めます。
株価収益率(PER)=株価/1株当たり純利益(EPS)
これを組み替えると、
1株当たり純利益(EPS)=株価/PER
ここで、株価に日経平均、PERに日経平均の予想PERを代入することで日経平均の予想EPSが得られる。すなわち、
日経平均の予想EPS=日経平均/日経平均の予想PER
ただし、日経平均は株式分割等による権利落ちや銘柄の入れ替えによって生じる不連続を“除数”によって累積的に修正しているので、その逆数である“倍率”によって割り戻すことで本来の日経平均の予想EPSを求めます。最終的に日経平均の予想EPSは以下の式で示されます。
日経平均の予想EPS=日経平均株価/日経平均の予想PER/倍率
*日経平均ベースの予想PERと倍率は日本経済新聞に毎日掲載されます。