NEW ポートフォリオ戦略実践講座:「前回講座、”円ドル相場の近時の日次変動特性を検証”の補足稿」  (2025/04/11公開)


≪ ポートフォリオ戦略実践講座 ≫

   ー 前回講座、”円ドル相場の近時の日次変動特性を検証”の補足稿 -

 今回は1月に公開しました“円ドル相場の近時の変動特性に関する検証“についての補足です。
 前回の講座では、日次円ドル相場の変動特性を統計的に処理することで、具体的な投資スタンスとして相場の現状を「通常変動」の範囲にあり静観できる状況、また、相場が「行き過ぎ」であり反転に準備すべき状況であることが判定できるとしました。
 ただし、こうした判定が可能となる前提として円ドル相場は無数の要因によって無定見に変動することで、周知の “正規分布”に従うことが要件となります(この分布は、本来のあるべき水準を中心として、そこから離れるに従って頻度が低まるという自然の摂理にも合致する分布でもあります)。

 前回は近時の変動特性をきめ細かく検証する期間の候補として、コロナ・パンデミックが生じた2020年以降の5年間、ロシアがウクライナ侵攻という暴挙を犯した2022年以降の3年間、そして直近の2024年1年間の相場を対象として正規分布性について調べた結果、所期の性質が成り立つ期間として2024年を取り上げて具体的な検証を行いました。
 今回はより精密に相場と正規分布との近似性を検討するために、直接ヒストグラムと正規分布を重ね合わせてグラフ化し、併せてこうした視覚による判定だけではなく客観的な数値による評価を行いました。すなわち、正規分布がヒストグラムをどの程度説明できるかを示す、統計学における常套手段である決定係数と相関係数を求めました。
 対象は上述の2024年1年間と直近までの情勢を折り込んだ2024年1月から2025年3月末までの2通りです。

 下図は2024年1年間についての日次円ドル相場推移グラフの再掲です。

                 2024年の日次円ドル相場の推移
               ―2024年1月4日~2024年12月30日―

   
                 出所:日本銀行/以下、円ドル相場の出所は全て日本銀行。

 2024年の円ドル相場は2022年からの3年間に比べ、平均値は141円25銭から151円57銭へと10円、7%上昇し、標準偏差は11円25銭から4円94銭へ6円、56%の大幅減少となりました。

 ちなみに下の図は2024年のグラフを2022年からの3年間のグラフの目盛で描いたグラフです。相場は全体的に上方(ドル高・円安)にシフトする一方、相場変動は小さくなり、安定度を増したことが分かります。

        2024年の日次円ドル相場の推移(目盛は2022年~2024年のグラフを適用)
               ―2024年1月4日~2024年12月30日―

   

 さて、上の図から2024年に入り円ドル相場の変動は安定度を増していることは読み取れますが、相場の形成構造そのものが安定しているかどうかは変動の分布状態が上記の “正規分布”に近いことが求められます。
 下図は2024年の相場変動のヒストグラムと、この間の平均と標準偏差に従う正規分布を併せて描いたグラフです。

               2024年の日次円ドル相場のヒストグラムと正規分布
                  ─2024年1月4日~2024年12月30日―

   

 正規分布はヒストグラムの形状をそれなりに追っており直感的には2024年の円ドル相場は構造的に安定していると言えそうです。
 しかし、ここではこうした形状による視覚的チェックだけでなく、正規分布がヒストグラムをどれだけ説明しているかを示す上記の「決定係数」と「相関係数」を求めます。

 サンプル数が15個と少ない点がやや難ですが、決定係数は0.604で正規分布は実際の円ドル相場の変動の6割以上を説明し、相関係数は0.777で相関の程度は8割に近いことで、正規分布はヒストグラム(相場の変動)を近似できると言ってよさそうです。。
 ということで、2024年の円ドル相場の構造は正規分布の性質に従って151円を中心として146円半ばから156円半ばまでの範囲であれば全体の68%程度が収まり、為替市場は通常の状態で相場には冷静に向き合うことが妥当と言え、141円を下回るドル安(円高)、あるいは161円を上回るドル高(円安)となった場合は相場の状況は確率的に2.5%以下の異常な事態で、何らかの対応を準備するべき状況ということになります。

 ここまでが前回講座の補足であり、次に対象を今年の3月末まで伸ばして足許の状勢を折り込むのと同時にサンプル数を増やすことで推計の信頼性を高めて相場構造の検証を行います。
 下図は2024年初から2025年3月末までの日次円ドル相場の推移を示すグラフです。

             2024年の日次円ドル相場のヒストグラムと正規分布
                ─2024年1月4日~2025年3月31日―

   

 この間の平均は151円75銭、標準偏差は4円71銭です。直近の3か月を加えることで、2024年1年間に比べ平均は18銭高まり、標準偏差が23銭低下しています。

 以下はこの間のヒストグラムと正規分布を合わせたグラフです。

         2024年初から2025年3月末までの日次円ドル相場のヒストグラムと正規分布
               ─2024年1月4日~2025年3月31日―

   

 分布の形状については全体の姿については大差はなく、相場はややドル高・円安にシフトする一方、標準偏差が若干低まったことで相場の安定度は高まったと言えます。
 決定係数は0.641と高まり、相関係数は0.8を超えたことで円ドル相場の形成構造がより正規分布に近づいたことで安定度が増したことがうかがえます。


<追伸>
 以上は”トランプ関税”が声明される前の3月末までの状況によるものです。トランプ関税が本格的に始動することで情勢は変わる可能性があり、その際、円ドルが142円を下回る状況になれば2022年のロシアのウクライナ侵攻以来の国際レベルの為替相場の波乱につながることもありそうです。




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講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。

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