<応用編・講座>
「ポートフォリオ戦略実践講座」
ー 基準相場にサヤ寄せする日経平均:企業業績に注視を -
日経平均は昨2024年7月に史上最高値4万2,224円を記録した直後に急落、8月5日に底値の3万1,458円を付けた後は急反発するなど不安定な状態が続きましたが、10月以降は3万9,000円を上下するやや落ち着いた動きに移っています。一方、この間、ファンダメンタルズに基づく日経平均を表す「基準相場」は一貫して3万7,000~3万8,000円の範囲で推移しており、このことは日経平均は本来のあるべき水準に対して上滑りの状態が続いていたことを示しています。
下図は日経平均と基準相場の推移を2024年初から直近の2025年2月末まで日次ベースで示したグラフです。
日経平均と基準相場の推移(日次)
―2024年1月4日~2025年2月28日―
紺色の線が日経平均、赤線が基準相場です。日経平均について昨年記録した史上最高値と底値の値、および期初の2024年1月4日と直近の2025年2月28日の日経平均と基準相場の値を記しています。
図から、この2年2か月の間で日経平均は極端な高値と安値を付ける大きな変動はありましたが、期初と期末でほぼ基準相場と同じ位置になっており、相場はファンダメンタルズに対しちょうど“行って来い”になっており、相場は時にファンダメンタルズから離れてもいずれファンダメンタルズに戻るという鉄則が示された形になっています。
直近の2月28日には日経平均が1,100円余り急落し、基準相場とのかい離が一挙に縮まりました。この急落は背景に米国景気がインフレの高進から景気後退につながるという懸念、またトランプ関税による世界経済の不確実性の高まりなどがあるとしても、それまで続いてきた相場の上滑り状態に対し相場自体がかい離を解消する力が働いたという見方もできます。
当講座ではこうしたファンダメンタルズとの対比において相場の状況をどのように評価し、それに伴う投資スタンスはどのようにあるべきかを示す指標を「リスク回避指数」として提供しています。
当指数の原点は、「相場がファンダメンタルズからかい離する現象は現場の投資家が市場における投資リスクをどのように捉え行動するかで引き起こされる」ということです。すなわち、投資家が市場のリスクが高いと判断すれば投資家はリスクを回避し市場から引き上げる、すなわち相場はファンダメンタルズを下回って下落し、一方、市場リスクが低いと捉えれば投資家はより多くのリスクを取ってより高いリターンを目指す、つまり相場にファンダメンタルズを上回る上昇圧力が働くことになります。「リスク回避指数」はこうした、投資家が捉える市場リスクの大きさを表す指数で、指数値の大きさがそのまま市場リスクが大きさを表します。
当指数は入学試験の成績評価などでお馴染みの「偏差値」に規準化されており、分かり易く市場のリスク状況、そしてそれに対応する採るべき投資スタンスを示します。
「偏差値」の特性から、指数が50点であれば市場リスクはちょうど中立で高くも低くもない状態、70点を超える場合は普通とは言えない高い水準の市場リスク(成績であれば秀才)で、投資家はリスクを回避することで相場は下げ過ぎ(リスクオフ)の状態になり、30点以下であれば普通とは言えない低い水準の市場リスク(成績では落第寸前)で投資家はより高いリスクをとることで相場は上げ過ぎ(リスクオン)の状態であることを示します。
(*)「リスク回避指数」について詳しくはこちらをご参照ください。
下図は2024年初から20205年2月末までの「リスク回避指数」の日次ベースの推移を示すグラフです。
「リスク回避指数」の推移(日次)
―2024年1月4日~2025年2月28日―
図で色分けした横線が各種の市場リスクの境界を示します。中央の黒線が50点の中立状態、黒線を挟んだ緑線が40から60点の通常の変動範囲、赤線が70点以上と30点以下の相場の下げ過ぎ(リスクオフ)と上げ過ぎ(リスクオン)の領域をそれぞれ示します。また、45から55点の間の黄色線は通常変動の中でも特に安定している市場リスクということで相場は「静観状態」にあるとします。
昨年の史上最高値と急落時の市場リスクとそれに基づく相場の状況を指数で見てみると、史上最高値時には37.11となっており通常変動の境界の40点は下回りましたが、リスクオンに入る30点までには距離があり、相場は過熱状態にはなく、やや警戒といったレベルであったことが分かります。一方、8月の急落時点では66.99と70点のリスクオフ領域にかなり近く、相場は下げ過ぎの状況にあったと見ることができます。買い出動に動いてもおかしくない状況であったと言えます。
そして、直近の2月28日には50.15と日経平均はほぼ中立状態に戻り、相場は安定状態になったことを示しています。
<ご参考>以下の表は「リスク回避指数」による相場評価の一覧です。
ということで、足元の相場は安定状態にあると言えますが、このことは半面で相場はファンダメンタルズに忠実な動きになることにつながります。そこで、足許のファンダメンタルズの状態を見ると必ずしも安穏な状況ではありません。
一つは不安定な為替相場の動き、そしてもう一つは企業業績の動向です。為替相場については2月3日の当講座でご案内しましたように、当面、円ドル相場は151円を中心に146円から156円の範囲で変動すると見られます。
ここでは企業業績の動向を見てみましょう。下図は日経平均ベースの予想1株当たり利益(予想EPS)について、連続して計測できる最古期の2002年5月から直近の2025年2月までの月末値の推移を示すグラフです。
予想1株当たり利益(予想EPS)の推移(月次終値)
―2002年5月~2025年2月―
月次終値ベースの予想EPSは2003年4月のバブル崩壊後の安値、2009年4月のリーマン・ショック後の安値、そして2020年9月のコロナ・ショック時の安値と折々の節目での急落を繰り返しながらも基本的に上昇基調を辿っており2025年2月は終値ベースで最高値を記録しています。
しかし、近時の動きを日次ベースで見ると、歴史的な最高値圏を維持しつつもここにきて足踏みから弱含み状態となっています。
下図は昨年初からの日次ベースの予想EPSの推移を示すグラフです。
予想1株当たり利益(予想EPS)の推移(日次)
―2024年1月4日~2025年2月28日―
予想EPSは昨年8月からほぼ330円台の最高値圏を維持し今年2月13日には最高値の346円台を記録しましたが、直近の2月28日には338円台で堅調な高原状態の持続に対しやや不穏な雲が湧いてきた感があります。
企業業績はファンダメンタルズを決定する最重要な要素です。足元で相場がファンダメンタルズに沿う動きに移りつつあるだけに、今後の企業業績の動向を注視することが欠かせません。
*ご注意:本講座は会員向けの「応用編・講座」に収録されます。ご覧になるためには会員登録が必要となりますが、会員登録した当月中は無料で全ての情報、機能をご利用いただけます。お気軽にお試しください。(退会の手続きはトップページの「退会手続き」の窓から行えます)。
講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。
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IIS
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