<『応用編・講座』>
「応用編・講座」の「国際投資環境の視点から」で新講座を公開しました。
ー ウクライナをめぐるクレムリンの本音を深読みする -
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当講座担当の真殿教授は2018年4月の講座で、当時完成間近であったロシアから欧州へのガス・インフラであるノルドストリーム2が将来の戦略的な重要テーマとなる可能性を指摘しましたが、ここにきてその様相が明らかになってきました。
酷寒の冬に向かう欧州で需給のひっ迫から天然ガス価格が暴騰、過去最高値をつけ欧州全般に不安が広がっています。折しもウクライナの国境へのロシア軍の集結などプーチン氏が積極姿勢を強めており、欧州のガス輸入の4割を占めるロシアの政治的な動きが窺われます。また、それに対する米国の対応が注目されています。
今回はこうした状況の中での米国・ロシア間のやり取りの実態について真殿教授の深読みの抄訳をお送りします。
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ロシア軍がウクライナ国境地帯に集結していると報じられている。バイデン大統領やNATO幹部は、ロシア軍が侵攻すれば、これまでに例のない制裁に及ぶとの威嚇発言を繰り返す。アメリカのいう制裁の目玉は次の二つだ。
(1)物理的に完工しているノルドストリーム2を稼働させない、(2)SWIFTからのロシア締め出し。SWIFTとは国際銀行間通信協会のことで国際間の送金や決済に利用されるグローバルなネットワーク。しかし、ロシアを追い出したら国際エネルギー取引は大混乱に陥る。制裁されるのはロシアではなく世界の金融界ではないかという反発もあり、実現はありそうもない。
プーチンも負けていない。「ウクライナのNATO入りはレッドライン」とのセリフを公然と唱え、12月17日にはロシア外務省が、ソ連崩壊以降のNATO東進を強く批判し、ウクライナのNATO非加盟、ソ連崩壊以降のNATO加盟国からのミサイル撤廃などをアメリカ政府に突き付けた。本気度の乏しい言葉だけの脅し合いだ。
世界を仕切るだけの剛腕を発揮できなくなったアメリカとロシア首脳が「言うだけ番長」化している。
ノルドストリーム2はロシアとドイツを中心とするEU-ロシア間のガスインフラで物理的には完工している。このまま放置されることが決まれば、暴騰しているガス価格はさらに天井知らずとなろう。EU経済は保たない。
一方、冬場にきてロシアには、ウクライナ東部で勢力範囲を拡大する意味はない。クリミア併合以来ウクライナ全体で高まるロシアからの離反意志を、不相応なコストをかけて後戻りできないレベルに高めるだけだ。
なぜロシアはウクライナ国境の軍の配備を強化しアメリカを挑発したのか。メインは2014年のクリミア併合以降醸成されてきたウクライナをめぐる世界の「しらけ」をアメリカが政策変更するネタにできないかと考えているからだ。
アメリカが、ソ連崩壊以来すすめてきたNATOとEUの東方拡大、民主主義の標榜によって、ロシアを含む旧ソ連圏諸国にレジームチェインジをもたらすという三位一体の政策はもはや機能しなくなっている。
EUはBREXITとポーランドなど新規加盟国のEU規範への抵抗で、拡大から分散縮小に向かっている。まとまりが崩れ遠心力が働くのではレジームチェインジを伴う東方拡大への力が雲散霧消する。
ウクライナは相変わらず国としてのまとまりを欠き、一人当たりGDPはついに欧州最低レベルで人口減少は著しい。
いつまでもロシアと対峙できるように支援し続ける重要国なのか、米ロともにウクライナ支援の限界を直視するときが来ているのかもしれない。
ロシアがウクライナを切り捨てるというなら、ウクライナがアメリカで持つ意味は大きく低下する。クレムリンは、アメリカに三位一体作戦はこれでストップして手打ちするときだ、と呼び掛けているのではないのか。
「アメリカも中国と腰を据えて向き合わなければならないなら、ウクライナで俺なんかとコスパの悪い喧嘩をしていて良いのかよ!」というのがプーチンの本当のメッセージではないのか。したたかで外交上手のクレムリンはいくつものシナリオを用意しているはずだ。
外交政策シミュレーションにおいては、昔も今もロシアは捨てがたいのだ。ただ一つ気になるのは、「(最上の筋書きを一生懸命用意してあげてもその通りできなくなっている)バイデン政権と話し合うメリットがあるのか」というクレムリンの米国政府評価かもしれない。
(抄訳:日暮昭)
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講師:真殿達
国際協力銀行プロジェクトファイナンス部長、審議役等を経て麗澤大学教授。米国のベクテル社、ディロン・リードのコンサルタント、東京電力顧問。国際コンサルティンググループ(株)アイジックを主催。資源開発を中心に海外プロジェクト問題への造詣深い。海外投資、国際政治、カントリーリスク問題に詳しい。
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IIS
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