<応用編・講座>
「ポートフォリオ戦略実践講座」で新講座を公開しました。
ー 急騰相場後の足もとの過熱感を測る -
日経平均は8月20日の2万7,013円を起点に上昇、9月14日には1990年8月以来31年ぶりの高値となる3万670円を記録しました。1か月足らずで3,657円、13.5%の上昇です。
日経平均はその後やや弱含み、足元では3万円前後の動きで落ち着いているようですがピークまでの上昇ペースはさすがに速過ぎたということで、相場の過熱を不安視する向きもあるようです。
そこで、今回は足元の相場が過熱状態にあるかどうかを客観的な視点で評価します。過熱状態とは株式相場が相場の基礎的条件であるファンダメンタルズを大幅に上回る状況と言えます。
まず、相場を表す日経平均とファンダメンタルズに見合う日経平均の水準を示す「理論株価」との関係を見てみましょう。下図は日経平均と理論株価、併せてファンダメンタルズの主要要素である業績、すなわち日経平均ベースの予想1株当たり利益(以下予想EPS)の推移をコロナ・ショック前の2020年初めから直近の2021年9月24日まで示したグラフです。
日経平均、理論株価と予想EPSの日次終値の推移
―2020年1月6日~2021年9月24日―
紺色の線が日経平均、青線が理論株価でどちらも左目盛です。赤線が予想EPSで右目盛です。この間の相場の節目であるコロナ・ショック、業績(予想EPS)の底値時、今年2月のピーク時、そして直近時の各指標の値を枠内で示しています。
図から以下のことが分かります。
1.ファンダメンタルズを示す理論株価と予想EPS(業績)の連動性が高い。
=>為替市場(米ドル)が安定していることによって、業績が本来の相場変動の軸としての姿を明確にしている。
2.コロナ・ショックで急落した日経平均の2か月後に予想EPSが急落。
=>コロナ・ショックに対する市場の反応は経営者の評価より早い(株式相場は実体経済に先行する)。
3.2021年5月の予想EPSの急上昇を先取りする形で6か月前から日経平均が急騰。
=>コロナ・ショックからの回復を市場は経営者の評価より早く反応(株式相場は実体経済に先行する)。
4.日経平均は2021年初に上昇の勢いが収まらず行き過ぎた後調整に入り、そして落ち着く。
=>株式相場はオーバーシュートは避けられない。
こうした状況の下で、市場リスクの観点から相場の過熱、冷え過ぎの状況を示す「リスク回避指数」で評価します。
この指数は相場の状況を捉えるために当サイトで毎日計測して公開する指標で、50点であれば市場リスクはちょうど中立の状態を示し、40点から60点の間であれば通常のリスク変動の領域、30点以下はリスクが十分に低く投資家は株式買いに走ることで「リスクオン」、すなわち相場の過熱状態と言える領域となります。また、70点以上に高まった場合はリスクが十分に高く投資家が一斉に株式市場から逃避して相場が下落することで「リスクオフ」の領域となります。
下図は上のグラフと同期間についての推移を示すグラフです。
「リスク回避指数」の推移(日次ベース)
―2020年1月6日~2021年9月24日―
図から、コロナ・ショックで市場は極端なリスクオフ状態に入り、その後その行き過ぎの反動で市場リスクは急落、中立状態の近辺で一時安定した後再び下げ足を速めて今年2月の高値では極端なリスクオンの状態に至っています。コロナ・ショックは1年弱の間に極端なリスクオンから極端なリスクオフまで移るという、リーマン・ショック以来の異例の相場変動を引き起こしたことが分かります。
市場はそこから正常状態に向かい、5月の業績の急上昇によって一気に通常リスクの領域に戻りました。その後は緩やかに上昇を続けて8月に中立の50点を超えたところで反転、直近では38点台となっています。
ファンダメンタルズが業績との連動性を高めて安定感があること、そして市場リスクが通常変動の領域近くで推移していることから、相場は過熱状態ではないと言ってよさそうです。ただ、直近の日経平均がファンダメンタルズを示す理論株価を2,600円ほど上回っているところは相場の下方引力につながらないか、やや気になるところではあります。
*当コラムは「応用編・講座」の抄訳です。「リスク回避指数」の実数値など詳しい相場解説は本講座をご覧下さい。
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講師:日暮昭
日本経済新聞社でデータベースに基づく証券分析サービスの開発に従事。ポートフォリオ分析システム、各種の日経株価指数、年金評価サービスの開発を担当。2004年~2006年武蔵大学非常勤講師。インテリジェント・インフォメーション・サービス代表。統計を駆使した客観的な投資判断のための分析を得意とする。
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